英語の"Hentai"は、日本語で直接対応する言葉を考えるとなんか違和感があるかもなあとHentai研究の論文を読んで思った。
2週間くらいまえにナゾロジーっていうサイトの「HENTAIにポルノ関する研究論文が出てるぞ」って紹介記事がはてブでも話題になったやつ。その元になってる研究論文。
記事の内容自体はどうでもいいのだけどもね。論文では踏み込んでないポルノの規制の話までするのは、取り上げているものとライター自身の考えが曖昧になるような書き方になっていていかがなものかなあと思ったわけです。少なくとも論文著者インタビューを読むかぎりどうもポルノ規制の話までは著者は具体的に考えているわけではないように思える。
論文自体をさらっと目を通してみて面白かったのは、Hentaiってこういうものですよっていうその定義の部分。学術論文であるから、そういう話はIntroductionからしないと当然いけないわけだがまず字面の問題として
What is hentai exactly?
と見出しで大真面目に書かれるとちょっと愉快な気持ちにならざるを得ない。ほら日本語は僕らの第一言語ですからね…
曰く、
- Hentaiとは、Animeキャラクターを使ったポルノ作品
- Animeキャラクターとは、日本由来のカートゥーンに見られるキャラクターやそのようなスタイルで描かれたもの
- Animeキャラクターには、見た目は人間であるものの、頭髪に関しては(人間の範囲を超えた)実にさまざまな色がつけられているという特徴がある
- Animeキャラクターはテレビ番組、映画、テレビゲーム、小説、音楽、ギャンブル(パチンコか?)など様々なエンタメジャンルで広く使われている
まず話の最初として、Animeキャラの説明をするだけでこの調子である。例として画像を引用して紹介しているのは「ペルソナ4」の鳴上 悠と「神次元ゲイム ネプテューヌV」のネプテューヌである。ゲームのキャラでアニメキャラじゃない。
「アニメ」の訳語は"Anime"じゃないと言ってしまえばそれまでの話だし、実際論文のなかで定義してる"Anime character"が指す範囲はアニメキャラにとどまらないのだけど、ここになんとも言えない面白みを感じる。
ゲームのキャラクターはゲームキャラクターだし、小説(たぶん主にラノベのことを言ってるのだろう)のキャラクターは単にキャラクターとかキャラとか言ったりするだろう。音楽は初音ミクとかあのへんのボーカロイドジャンルを指して言ってるのだろうか? そうならば、やっぱり単なるキャラクターだ。アニメ風とか形容することはあるだろうけど。パチンコだったらそもそもアニメを題材にしていることが多いだろうし、まんがやゲームだったらそれぞれまんがのキャラクター、ゲームのキャラクターといったように区別して呼ぶと思う。
そう、Animeキャラクターはいろいろなものを区別しない呼び方なんである。もしくはアニメキャラクターとその他のまんが絵に色がついたようなキャラクターを区別しない呼び方と言ってもいいのかもしれない。
そもそも論文の英語ではAnime キャラとはカートゥーンのキャラクターと言っているわけで、動画作品ジャンルの一つとしてのアニメで使われてなくても定義上よしとしているわけだ(このあたりのニュアンスは論文で参考にしている文献をさらに読んでみないとわからないのだけども本当は)。
カートゥーン(まんがとかアニメとか)と表現できるものはおそらく世界中どこにでもあって、そのなかでおおまかに「日本のもの(またはそれっぽいもの)に出てくるキャラクター」をくくるための言葉がAnimeキャラなのだろうか。
この「日本とそれ以外」って範囲分けは論文で取り扱うHentaiにも効いてくる。曰く、「Hentaiはまた、一般的に様々なメディアを通じて消費される。VR、3D/2D アニメーション、ゲーム、doujinshi(同人誌)などである」ですって。
エロ同人やエロゲ、エロアニメをまとめて指す言葉って日本語にはあるだろうか。そんなもんねえよ…と言いたいところなのだが辛うじて「二次元エロ」が浮かんでくる。しかしこの手のポルノジャンルをくくる言葉として条件は合ってると思うが、どうだろう? なんとなく違和感がある。
違和感があるのはたぶん、自分の言語感覚としてエロ同人はエロ同人、エロゲはエロゲといったように二次元のエロジャンルを一語で包括的にくくることがあまりないせいかもしれない。
Hentaiという語のコンセプトからして、日本風のまんが・アニメ絵のキャラが使われてるという共通点で一まとまりにしているというところも違和感の正体かもしれない。日本で生まれ育ってるからわざわざ意識しなくてもまんが・アニメの絵はほぼ日本風です(自分にとってね)。デフォルトでそうなってるから意識してひとまとめにしなくてもいいというか。
この「さまざまな要素を含んだ広い範囲のものを一言で表す」言葉というのは、キャラクタージャンルを指す言葉としての「妖怪」という日本語と直に対応する言葉が他にはないらしい、という話に似ていると思った。
他の語をもってきてもどうしてもずれるらしい。怪しいもの不思議なことをキャラクター化したものから、単に日本に昔からあるふうなだけで完全に創作された怪しげな存在(キャラクター)まで全部含んで指す言葉としての「妖怪」、そういう概念に直に対応してる語は日本語の外にはない…らしい。
Hentaiも妖怪もなんとなく、内と外という領域のちがいが関係している言葉だなあと思った。「妖怪」は日本で生み出された日本のものをくくるための語だけど(おそらく)、外の存在がなければ内もないわけ。Hentaiもおおまかに「日本の/日本風の」とタグをつけて理解するための語なんじゃないかなあ。